投資対象に優劣はない|違うのは、その投資が要求する能力である

資産の考え方

投資対象ごとに求められる能力の違いを示すイメージ

投資を始めようとすると、多くの人が最初にこう考える。

「何を買えば儲かるのか」
「どの商品が一番安全なのか」
「株と暗号資産なら、どちらが将来性があるのか」

投資商品を比較し、その中から最も優れたものを探そうとする。

しかし、本当に先に考えるべきなのは、商品そのものの優劣ではない。その市場が自分にどのような能力を要求してくるのか、そして自分には、その要求に応えられるだけの知識、経験、資金管理能力、精神的耐性があるのかを考える必要がある。

私が「投資対象に優劣はない」と考えているのは、そのためである。

市場が違えば、投資家に要求される能力もそれぞれ異なる。

だからこそ、まず考えるべきなのは、どれが最も儲かるかではなく、どの投資対象が自分に合っているかである。それを見極めることが、余計なリスクを避けるためにも重要になる。

ここからは、代表的な投資対象がどのような特徴を持ち、投資家に何を要求するのかを比較してみたい。他にもさまざまな投資対象があるが、今回は私が主に経験してきたものを取り上げる。

多くの人は「何が儲かるか」から考える

投資に関する情報の多くは、利益を起点に語られる。もちろん、利益を得るために投資をする以上、収益性を考えること自体は間違っていない。資産を増やしたいという欲も、投資を続けるための立派な動機の一つである。

問題は、期待できる利益だけを見て、その利益を得るために必要な能力を見落としてしまうことである。

率直に言えば、投資で一度儲けられたことと、その後も利益を残し続け、最終的に市場で生き残ることはまったく違う。長期的に利益を残し続けることは、一般のサラリーマンが会社から給料を受け取り続けるより、はるかに難しく、厳しい。

市場では、相場のプロ中のプロを相手に戦うことになる。そこには配慮も、お目こぼしも、ひいきもなく、泣き落としも、怒りも、肩書も一切通用しない。

さらに、高い収益が期待できる市場ほど、一般には値動きも大きくなりやすい。個別株では企業分析や業界への理解が必要になり、暗号資産では株式とは異なる市場構造や、保管、取引所、税制についての知識が求められる。先物やオプションでは、相場観だけでなく、証拠金管理と損失の制御が生存条件になる。

このように、投資商品にはそれぞれ異なる性質がある。にもかかわらず、期待できる利益だけを比較して参加すれば、自分が何の試験を受けているのかも分からないまま、市場に立つことになる。

本当に考えるべきは「何が自分に向いているか」

投資対象を選ぶとき、多くの人は商品の将来性を調べる。だが、それと同じか、それ以上に、自分自身の適性や能力を知っておかなければならない。

ここでいう能力とは、単に頭が良いかどうかではなく、その市場に適応できるかどうかである。

価格が数%下がっただけで不安になるのか。含み損が出ても、当初の投資理由を再確認して保有を続けられるのか。企業の決算書や事業内容を調べることを苦痛に感じないか。日々変化する情報を追い続けられるのか。

また、損失が出たときに、取り返そうとして自己規律を破り、予定外の売買に手を出さないか。自分の判断が間違っていたときに、祈りながら持ち続けるのではなく、素直に修正できるかも重要になる。

投資で問われるのは、知識だけではない。時間、性格、生活環境、資金量、損失への耐性、判断を継続する力まで含めた、総合的な適性である。

価格の動きは、上昇、下落、横ばいのいずれかでしかない。しかし、その動きに対応できるかどうかは、投資家側の適性によって大きく変わる。

世間で優れているとされる商品でも、自分に合わなければ良い投資にはならない。反対に、一般には難しいとされる商品でも、十分な経験と管理能力を持つ人にとっては、有効な選択肢になり得る。

重要なのは、商品を序列化することではない。

自分が、その市場の要求に応えられるかどうかである。

NISAを使ったインデックス投資が勧められる理由

多くの個人に、NISAを使ったインデックス投資が勧められるのは、インデックスが常に最も儲かるからではない。

NISAは投資商品ではなく、対象となる株式や投資信託から得られる売却益、配当、分配金が非課税になる制度である。そのため、対象となる投資信託を購入するなら、課税口座よりも税制上有利になる。

ただし、ここで述べるインデックス投資の特徴は、NISA口座以外で購入する場合にも基本的には共通している。

インデックス投資が多くの人に勧められる大きな理由は、投資家に要求される能力が比較的少ないことにある。

個別企業の将来を自分で予測する必要がなく、一社の不祥事や業績悪化によって資産の大部分を失う危険も抑えやすい。日々の値動きを細かく分析しなくても、長期、積立、分散という仕組みを利用でき、投資判断の多くを市場全体や指数に連動する仕組みに委ねられるため、個別銘柄について余計な判断を繰り返す必要も少ない。

ただし、これは決して「誰でも必ず儲かる」という意味ではない。

インデックス投資にも、下落を受け入れる力は必要である。数年単位で資産が伸びない時期もあり、市場全体が大きく下落すれば、評価額は当然減少する。しかも、下落がいつまで続くのかは誰にも分からない。

基本的には買い持ちを続ける運用であるため、自分で相場の流れを変えることもできず、悶々とした時間を過ごすことになる。そこで恐怖に耐えられず売却すれば、長期投資の仕組みを自分で壊してしまう。

つまり、インデックス投資が要求するのは、高度な銘柄分析力ではない。余剰資金を使い、分散を維持し、下落時にも方針を変えず、退屈に耐えて長期間続ける力である。

生活費まで投じれば正常な判断力を失い、不本意な売却を強いられる可能性がある。

インデックス投資は、何も考えなくてよいほど簡単なのではない。要求される能力が、分析力よりも継続力と自己規律に寄っているのである。

個別株で要求される能力

インデックス投資を続けていると、増え方が物足りなく感じる人が出てくる。

もっと早く資産を増やしたい。市場平均を上回るリターンが欲しい。将来性のある企業を先回りして買いたい。

インデックス投資は、長期間継続し、投資額が大きくなれば、複利の力によって資産が加速度的に増えていく。それ自体は正しい。

しかし、何十年も先に訪れる加速を待ち続けられるかどうかは、また別の問題である。そこで、市場平均を上回る利益を求める人が選ぶ道の一つが、個別株である。これは、多くの投資家が通る自然な経路でもある。

ただし、個別株では、インデックス投資とは異なる能力が要求される。

企業の事業内容を理解し、決算や財務を読み、成長期待と現在の株価を分けて考える力が必要になる。業界全体の資金の流れを観測し、好材料がすでに株価に織り込まれていないかを判断しなければならない。

さらに、自分がその企業を好きであることと、その株が割安であることを区別する力も求められる。

有名企業だから安全とは限らず、優れた企業だから株価も上がり続けるとは限らない。事業が成長していても、それ以上の成長期待が株価に織り込まれていれば、決算発表後に下落することもある。

業績も良く、利益も伸びている。それなのに株価が上がらない。それどころか、好決算の発表と同時に株価が下落し、後になって振り返れば、決算発表前の価格が天井だったという例は腐るほどある。

市場では、それが特別な出来事ではなく、普通に起きる。

個別株では、企業を見るだけでは足りない。その企業を、市場がどのように評価しているかまで見なければならない。

さらに、一つの判断ミスが資産全体に与える影響も、インデックスより大きくなりやすい。

個別株が不利なのではない。企業分析、価格評価、分散、撤退判断という能力を持たずに、株価上昇への期待だけで参加することが危険なのである。

信用取引・先物・オプションで要求される能力

より大きな利益を求めるもう一つの道として、空売りやレバレッジ取引が可能になる信用取引、先物、オプションがある。

うまく相場の波に乗れたときのパフォーマンスは凄まじい。その一方で、使い方を誤れば短期間で大きな損失が発生するため、これらはしばしば危険な商品として語られる。

まさに諸刃の剣だが、商品そのものが悪いわけではない。

買い持ちを基本とする積立投資とは異なり、空売りを使えば、株価や指数の下落を利益に変えることもできる。インデックス投資家が含み損を抱え、不安の中で積立を継続しているときでも、下落方向のポジションを持つ投資家は、暴落を利益にできる可能性がある。

相場の急落を予測し、短期間で大きな利益を得たときには、強い高揚感も生まれる。暴落局面では値動きが速くなりやすく、短期間で勝負がつき、利幅も大きくなることがある。

しかし、その快感こそが危険でもある。一度大きな利益を得れば、再び同じ興奮を求め、必要以上のリスクを取るようになりやすいからである。

そもそも、信用取引、先物、オプションは、単に値幅を取るためだけの商品ではない。本来は価格変動のリスクを管理するためにも使われる金融商品であり、上昇局面にも下落局面にも対応できる。

機関投資家が保有資産の下落に備えて使う場合と、個人投資家が短期的な値幅取りのために使う場合では、同じ商品でも意味がまったく異なる。

そして、この市場で要求される能力は多い。一般的な現物株取引だけの知識では、太刀打ちできない構造になっている。

証拠金の仕組みを理解し、レバレッジが利益だけでなく損失も拡大することを受け入れ、自分の予想が外れることを前提に損失額を決めなければならない。

相場が急変しても、感情的にナンピンしてポジションを増やさないこと。損失を取り返そうとしないこと。勝っているときほど資金管理を崩さず、勝負すべきでないときには参加しないことも必要になる。

現物投資では、価格が下がっても保有を続けられる場合がある。しかし、証拠金を使う市場には期限や証拠金の制約があり、最終的な相場観が正しくても、そこへ至る途中の値動きによって退場させられることがある。

失敗すれば追証が発生し、状況によっては、投資資金を失うだけでなく、借金を背負う可能性もある。

つまり、方向を当てるだけでは生き残れない。時間、値幅、資金量を同時に管理しなければならない。

先物やオプションで重要なのは、予測能力だけではない。

自分の判断が外れたときに、予定どおり負けられる能力である。

まさに、利益と恐怖が背中合わせになった市場といえる。

暗号資産で要求される能力

暗号資産は、値動きが大きい。先物やレバレッジ取引も可能であり、値動きが激しいため、少額の資金にレバレッジをかけて取引する人も多い。

短期間で大きく上昇することもあれば、数か月で価格が半分以下になることもある。例えば、ビットコインは過去の主要な弱気相場で、最高値から70~80%を超える規模の大幅な下落を経験してきた。

現物を保有しているだけなら評価額の減少で済むが、レバレッジをかけていれば、一度の急落で強制決済され、市場から退場させられることもある。

この激しい値動きだけを見て、暗号資産は危険だと考える人もいる。一方で、過去の上昇率だけを見て、簡単に資産を増やせる市場だと考える人もいる。

どちらも、市場の一部分しか見ていない。

上昇を捉えたときの破壊力は、他の投資対象を大きく上回ることがある。だからこそ、多くの人が引き寄せられる。

しかし、暗号資産で要求されるのは、単なる値下がりへの我慢ではない。

まず、株式市場とは異なる仕組みを理解する必要がある。取引所の信用リスク、秘密鍵や資産管理、ハッキングや送金ミス、規制や税制の変化など、価格以外にも管理すべき要素が多い。

さらに、市場は二十四時間動き続け、世界中の投資家が同時に参加するため、急激な資金移動も起こりやすい。株式では企業価値を基準に考えられるが、暗号資産では、ネットワークの価値、需給、採用の広がり、規制環境など、異なる観測軸が必要になる。

もちろん、価格変動への耐性も必要である。

ただし、耐えることと放置することは違う。大きな下落が起きたとき、それが市場全体の調整なのか、保有している暗号資産固有の問題なのかを見分けなければならない。

暴落時にも買い増しできる資金を残しているか。生活費まで投入していないか。上昇時に欲が膨らみ、当初の資金配分を崩していないか。

暗号資産が要求する能力は、価格変動への耐性だけではない。市場構造への理解、資産保全、税務知識、資金管理、そして強い欲と恐怖を制御する力である。

大きな利益が期待できる市場では、投資家自身の弱点も大きく増幅される。

難しい市場ほど優れているわけではない

投資経験を積むと、より難しい商品へ進むことが上達であるように感じる人もいる。

インデックスより個別株。現物株より信用取引。信用取引より先物やオプション。

単純な商品より複雑な商品の方が、上級者向けで優れているように見える。

しかし、投資はゲームの難易度を上げる競技ではない。

目的は、複雑な商品を扱えることや、投資の技術力を証明することではなく、自分の資産を増やし、守ることである。

高度な金融商品を使いながら資産を減らす人よりも、インデックス投資を長期間継続して資産を築く人の方が、実質的な投資の目的を達成している。

普通のサラリーマンが、プロの投資家のような取引をまねて、大切な資産を必要以上のリスクにさらすのは、極めて危険である。

一方で、インデックスだけが正解というわけでもない。

十分な分析力と経験を持ち、個別株や暗号資産、証拠金取引のリスクを管理できる人にとっては、インデックス投資の時間軸が長すぎると感じられることもある。

市場全体の回復を待つしかない状況や、暴落中も淡々と積立を続ける運用が、その人の能力や投資目的に合わない場合もある。

長距離走に向く人と、短い時間の中で瞬時に判断する競技に向く人がいるように、投資にも向き不向きがある。

信用取引や先物を適切に使いこなせる人であれば、上昇局面だけでなく、下落局面にも対応する手段を持てる。その結果、相場環境に応じて、より柔軟に立ち回ることも可能になる。

ただし、それは暴落が怖くなくなるという意味ではない。扱える手段が増える代わりに、管理しなければならないリスクも増える。

それでもなお、その市場を選ぶ人がいるのは、インデックス投資が劣っているからではない。

求めている収益、時間軸、使える能力が違うのである。

問題は、どの商品を選ぶかではない。

自分の能力を超えた市場に、自覚なく参加していないかである。

市場は参加者に合わせてくれない

市場は、投資家の事情を考慮しない。初心者だからといって、ハンデをくれたり、損失を軽くしてくれたりすることはない。

むしろ難しい相場では、経験の浅い参加者ほど、熟練した投資家の利益を生み出す燃料にされやすい。誰でも利益を得られるような上昇相場では、その差は見えにくいが、相場環境が悪化したとき、知識、経験、資金管理の差が一気に表面化する。

生活費を投じているから価格下落を待ってくれることもなければ、老後資金だから安全な方向へ動いてくれるわけでもない。

市場は、それぞれの仕組みに従って動く。

投資家にできるのは、市場を自分に合わせることではない。その市場が何を要求しているのかを理解し、自分が応えられる範囲で参加することである。

分析する時間がないなら、分析を必要としにくい仕組みを選ぶ。大きな価格変動に耐えられないなら、投資額を抑える。損切りができないなら、証拠金取引を避ける。企業分析が苦手なら、無理に個別株を選ばない。常に相場を観測できないなら、短期売買をしない。

これは逃げではない。

自分の能力と生活環境を理解した、合理的な市場選択である。

投資対象ではなく、自分との相性を見る

投資の世界では、しばしば商品同士の優劣が議論される。

インデックスが正しい。個別株こそ大きく増やせる。暗号資産には未来がありそうだが、意味が分からないし、詐欺のように見える。先物は危険だから触るべきではない。

しかし、こうした議論の多くは、商品だけを見て、参加する人間を見ていない。

同じ商品でも、扱う人によって結果は変わる。同じ下落でも、余剰資金で投資している人と、生活費を投入している人では意味が違う。

同じ個別株でも、企業を調べている人と、ネットやSNSの情報だけで買った人では、保有しているものは実質的に同じではない。同じ暗号資産でも、資産管理や税制を理解している人と、価格上昇だけを期待している人では、背負っているリスクが違う。

投資対象に優劣はない。

市場が違えば、投資家に要求される能力が違うだけである。

そして、投資家が選ぶべきなのは、最も儲かりそうな市場ではない。

自分がその要求を理解し、管理し、生き残れる市場である。

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